2012年4月15日

そば処「すがわら」南三陸町入谷地区

そば処 すがわら(南三陸町入谷地区)
そば処「すがわら」店主の菅原良成さん(34歳)大阪と東京の老舗割烹で培った確かな腕が県外からのお客の舌も唸らせる。


割烹を極めた料理人が腕を振るう、南三陸屈指の名店。


そば処「すがわら」南三陸町入谷地区
「すがわら」の店内。20人程が入る和室の他、個室もある。
南三陸町中心部から国道398号線を登米市方面へ走ること約10分。童子山を目指し測道に入ると、被災を免れた静かな田園風景が広がる南三陸町入谷地区に辿り着く。茅葺屋根の家々、農家の営み、懐かしく印象的な風景の中に一本の清流が流れている。その清流沿いに蒼い暖簾を掲げ静かに佇むお店、それが「そば処 すがわら」である。
何と言っても「すがわら」の特徴は、一度足を運べば再び訪れたくなる繊細な味と、居心地の良さにある。自宅を開放したという明るく広々とした店内は、ついつい寝転がってしまいたくなるような居心地の良さが広がっている。実は編集部である私も「すがわら」の味と居心地に魅了されたファンの一人だ。被災を免れた入谷地区には震災前と変わることのない南三陸町の優しい風景が広がっている。大きな窓から見える景色は震災前の風景そのもの。この場所でご主人の料理を食べたあの日からついつい月に何度も訪れてしまうのだ。

常連客御用達 すがわら手製の「胡麻豆腐」
そして「すがわら」の最大の魅力はその繊細な「味」にある。大阪北新地、東京銀座、日本橋、著名人も訪れる高級割烹料理店で修行を積んだご主人が作る料理の数々は「そば処」というよりも、やはり「割烹」に限りなく近い。地元産を主とした旬の野菜、南三陸港で水揚げされた魚介類など地元産の食材を駆使し春夏秋冬を意識した創作メニューは、すべて一から手間をかけ提供される。手製のお蕎麦、上品な味付けの丼物、素材の食感が活きた季節の天ぷら、付け合わせ、そして一品料理。どれを注文しても「割烹 すがわら」ならではの繊細な味付けに魅了されるだろう。
写真は、すがわら手製の「胡麻豆腐」。昼夜問わず常連客がこぞって注文する人気の一品料理。これがまた本当に美味い。繊細な胡麻の香りと上品な味付けで、蕎麦や丼物の前や飲んだ後のシメにもおすすめの逸品なのである。




そば処「すがわら」南三陸町入谷地区
そば処「すがわら」主人の菅原さん
被災した事を少しでも忘れられるように。心を込めた料理で南三陸を元気にしたい。

「すがわら」店主、菅原良成さんが料理の道に目覚めたのは幼少の頃だった。実家がそば処を経営していた事もあり、小さな頃から料理がいつも身近にあったという。高校生になる頃にはすでに将来の目標が決まっていた。そして高校卒業後南三陸町を飛び出し向かったのは大阪の老舗割烹料理店。住み込みで働きながら10年間修業に明け暮れた。そして修行の場を東京に移し、5年間に渡りさらに腕を磨き上げた。修業期間こそ大変だったが、辞めたいと感じた時や、料理から離れたいと思う瞬間は一度もなかったという。15年に渡る長く厳しい修行を経て、南三陸町にお店を構えたのは2011年夏のことだった。彼自身、被災を免れたが震災前から準備していた店舗の準備も震災で白紙に戻ってしまった。「震災前に割烹料理店を始めようと町内で場所探しをしていたんです。その最中にあの震災が起きてしまった。一瞬頭が真っ白になりましたが震災後は割烹への道を一時休んで、誰でも安くて気軽に食べられる蕎麦処を開店しようと思ったんです。とにかく被災した南三陸を元気にしたい。南三陸町の人に料理の美味しさを伝えたい。この町の人たちにもっと美味しいものを食べて欲しい。今は純粋にそう思っています」。

そば処「すがわら」南三陸町入谷地区
「すがわら」の前を流れる清流。静寂に包まれた長閑な風景がどこまでも広がる。震災後、途方に暮れていた自分を奮い立たせ、自宅を解放し営業を始めたのが2011年夏の事。「震災から1年が経ち、南三陸に訪れる人の数も減っていく中、やっぱり地元から元気にならないと。震災前のようにお酒片手に元気に語らうのが南三陸町民ですよね。親しい友人とじっくり語らいながらお酒を飲みたいときに是非利用して頂きたい。昼間の営業ももちろんですが、夜はやっぱり料理の腕が鳴りますね(笑)美味しいお酒も取り揃えてますし、大人数でも対応できます。県外の方にも是非南三陸町で美味しいものを食べて、心を豊かにしてほしい。」



すがわらの「天ざる」

そば処 すがわら(南三陸町入谷地区)
そば処「すがわら」の天ざる 一年を通して季節の天ぷらを味わえる
この季節「すがわら」おすすめメニューとして紹介するのが手製の「天ざる」。暖かい季節にぴったりの逸品。お蕎麦は蕎麦粉から厳選したコシのある食感が特徴。鰹節のダシでとったつゆは上品な味わい。つゆの味付けもこの時期はあっさり目に仕上げ、季節によって変えている。天ぷらの素材にもなるべく南三陸産の食材を使用。蕎麦だけでなく、天ぷらも自宅で楽しむものは違う割烹ならではの上品な味わいだ。
天ざる 1,100円


すがわら特製お弁当

そば処 すがわら(南三陸町入谷地区)
写真の他に小鉢、蕎麦、デザートが付く(要予約)
昼も楽しめるが、夜にぜひおすすめしたいのが「すがわら特製お弁当」。地元産の食材を使用した数々の一品料理を堪能できる。季節に応じて中身は店主おまかせとなるが、すがわらの真骨頂が堪能できる。予算に応じての対応も可能だ。宮城の地酒と一緒にぜひ楽しんで頂きたい逸品。おちょこも5種類の中から好みの器を選べる。隔離された個室は、接待や法事等にも人気だ。(特製お弁当は前日まで要予約)

すがわら特製お弁当 1,500円〜

3.11 あの日の記憶


そば処「すがわら」南三陸町入谷地区

2011年3月11日、あの巨大地震を店主の菅原良成さんは港近くで体験した。悪夢のような出来事だった。自分を取り囲む建物、電柱、あらゆる物が信じられないほど揺れ狂う様を見た。気がつくと目の前の道路が割れ下水が噴き出していた。実家に残した母親と寝たきりの祖母の事が頭をよぎった。そしてすぐに車で家へ向かった。信号は機能を失い、道路は逃げ惑う人々や車で溢れていた。無我夢中で右へ曲がり左へ曲がり、歩道をすり抜け家へ辿り着いたのは30分も後の事だった。途中何度も地震の凄まじさを目にした。国道沿いの電線は垂れ下がり、山沿いの道には信じられない程大きな岩が落ちていた。家族は無事だったが、家の中は地震の凄まじさを物語っていた。そして震災後、ライフラインが復旧するまでの数ヶ月を、寒さに震えながら過ごした。「日々生きて行くだけで精一杯でした」。そして彼には、その頃の記憶がほとんどないと言う。


そば処「すがわら」そば処「すがわら」(南三陸町入谷地区)
国道398号線沿いから、山間部に向かって5分程進むが国道の看板がお店までの道のりを丁寧に教えてくれる。田園風景を流れる清流と蒼い暖簾が目印だ。

〒986-0782
宮城県本吉郡南三陸町入谷字林際21-3
TEL:0226-46-6729
営業時間:11:00〜14:00(昼)17:00~20:00(夜)ラストオーダー 19:00
定休日:水曜日
駐車場:10台(第1・第2 駐車場有)
http://www.facebook.com/sobasugawara



そば処「すがわら」へのアクセス


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Text = SHOKO.S(Progress南三陸 編集部) Photo = K.Yamauchi(Progress南三陸 編集長) 取材日 2012年4月13日